小津安二郎の遺作「秋刀魚の味」に信州で想を練りながら、「よく食した」とある。

「湯川で買って来てもらった秋刀魚、なかなかうまし」「朝食、また秋刀魚にて少々あきる」と日記に綴っている。秋刀魚はありふれた日常のモチーフで晩秋を迎えた人生の孤独が描かれている。

私はこの数年食べていなかったが、今年は夕食で食べることが出来た。豊漁のおかげである。大根おろしやへべすをたらしながら食べたサンマは懐かしさで、うなずく味であった。

米国の変質をみるまでもなく、近ごろ、あたり前のものが失われてゆく怖さを感じることが多い。

秋刀魚もそうだが、マルハニチロが養殖に成功したと聞き、嬉しくなった。その技術を支えるのが世界初の飼育を実現したアクアマリンふくしま。ありふれた種の飼育技術を誇る異色の水族館である。

出来ればあたり前のものがあたり前に食することが続いて欲しい今日この頃である。